工夫が要る会話がしたい

 人とふつうの会話をする時間がぜんぜん足りない気がする。工夫が要る会話をしたい。もっと、工夫しようと思える会話を。思ったように真意が伝わらなかったり、話すテンポや話し方の流派が違ってスムーズじゃなかったり、好きな言葉・嫌いな言葉がお互いに違うせいで一瞬嫌な気持ちになりかけたり、そういう摩擦をもっと味わうべきなんだ。
 なるべく平和に過ごしたいというスタンスの人が話しているのに、どこか「うーん、なんか気持ちよくないな」という感じ。それを工夫と愛で乗り切りたい。「『奥さん』っていう言葉使わないでほしいなあ」とか「この人、前会ったときよりも不機嫌そうじゃない?」と思いながら、その上で会話を良くしようとするような。
 そう思うようになった理由は3つある。  今読んでいる小説の中の会話があまりにも滑らかで読みやすく、なんだか不安になること。好きなラジオを聴けば聴くほど編集されたトークの心地よさに慣れていっていること。電車の中のモニターの広告を見すぎたこと。
 店に営業の電話がかかってきた。 「小規模事業者の方向けの〇〇をお勧めしている代理店の者でして、今月末までの期間限定の特典の……」  止める暇もなく説明が始まるので、一応切らずに聞いていると「そんなうまい話があるかいな」と誰でも思いそうな内容なのに、立て板に水のなめらかさで話が進む。こ、これは会話ではない! 電話をかけているあなたも、受けている僕も、こんな時間を過ごしちゃいけないんだ本当は。
 契約を丁重にお断りして、心の奥で「仕事抜きでどこかで会うことがあれば、もっと良い話しましょう」と唱えて電話を切った。