風の中のすばる
高校の時の物理のK先生は、何を言っているのかよく分からないけれども説明しながらテンションがどんどん上がっていき、授業中に実験として空気で浮くホバークラフトのオモチャ(?)を床の上で激突させては誰よりも喜んでいるような人だった。その先生が配るプリントは手書きで、字も図もあまり上手とは言えなかったが、とにかく物理が楽しいのだということだけが真っすぐに伝わってきた。
僕は科学部のような部活に入っていた。
科学部の「ような」と書いたのは、その部活の活動には国から補助金が出ていて、高校生が普通は使えないような予算を使えるという少し不思議な環境だったからだ。
僕たちは大学の先生に協力してもらいながら、妙に本格的っぽい実験をしていた。友達数人と研究発表を外部に向けてするとき、僕たちはプロジェクトXというテレビ番組のパロディの形式でスライドを作り、それにナレーションを入れるように発表することにした(「男たちは、頭を抱えた…………」)。
顧問の生物の先生は苦言を呈した。
外部に、それも国の補助金を受けて発表するのに、NHKのパロディをするとは何事だ。このロゴ、著作権違反じゃないのか。最後に中島みゆきのエンディングテーマを流すな。……もっともな指摘だ。
そこに現れたのが、例の物理のK先生だ。リハーサルを見ながらニコニコというか、ヘラヘラしていた。僕らと同じものを面白がっていたのだ。
僕たちは自分たちの都合のいい方に考えて、K先生の反応を信じて強行することにした。顧問の先生はキレていた。発表を聞いていた他校の先生も「あのパロディはどうなんだ」と感想を書いていた。K先生だけが、ずっとへらへらしていた。
考えてみれば、人気番組のパロディでウケようとするより、何かオリジナルの面白さを作るほうがよほどスマートだ。研究の内容がずば抜けていて評価されるなら、それが一番かっこいい。あまりにも中途半端な、未熟な悪ノリだった。
それでも僕は、いまだにK先生の顔を思い出す。楽しそうな顔を思い出されるような人になりたいと思う。