いーはとーぼ

 下北沢にある「いーはとーぼ」という喫茶店のマスターが亡くなったらしい。北口の方の2階にある店だ。僕にとっては、これぞ下北沢という気持ちになる喫茶店。
 
 何度かひとりで行った。「ブラックコーヒーをください」というと「ブラックなんていう言い方はない。砂糖を入れても黒いんだから、ストレートと言うんだよ」とぴしゃりと言われたのを思い出す。良い喫茶店は、いつも少し怖さがある。
 
 言わなくても済むことを言う怖さ。ブラックコーヒーという言い方を世界から無くしたかったのか、こだわりを貫いていたのか、単に不機嫌だったのか。人柄を存じ上げないので分からないけれど、かっこいいと思った。
 
 言わなくてもいいことを、わざわざ言って、それを言ったことに対する責任をなるべく放棄しない。厄介だけど、その厄介さが人間なのかもと思う。厄介さの中に、チャーミングなユーモアがあれば、なお良いと思う。