弾けなかった日
大学生のとき、友達4人とコピーバンドをやっていた。お互いが好きな曲をプレゼンしあって、弾けそうな曲をコピーしていた。5,6曲弾けるようになったらライブハウスを予約して、何組かの他の知らないバンドと一緒にライブに出たりした。
バンドのメンバーのことは好きだったし、演奏も楽しかったのだが、たぶん音楽とは別のところで生じた閉塞感を打ち砕きたいという焦りに駆り立てられた僕は、他のバンドにも所属して演奏できないかと動き出したことがあった。
当時はまだ今ほどSNSも発達していなかったから、バンドメンバーを探すとしたら、スタジオに貼ってあるメンバー募集のチラシから連絡するか、今一つ盛り上がりに欠けるメンバー募集サイトを見るしかなかった。
「あまり売れない感じだけど、自分たちが本物だと思う音楽をやってる」と書いてあるチラシを見てメールした。スタジオ近くのサンマルクで顔を合わせた、そのバンドのギターの人から「この曲を練習してきてくれ」とmp3ファイルを渡されて、数週間後の日を指定された。
一言で言えば僕の演奏能力はまったく不足していて、課題として出された曲のイントロすらまともに弾けなかった。
電話なりメールで「弾けません」と言えば済むものを、僕は当日までうじうじと過ごし、迎えた当日。初めて降り立つ駅のスタジオに入った。そこには僕より一回りは上に見える男性2人がいて、ドラムの人は寡黙な人だった。
僕は弾けないと言えないまま、ドラムの人がカウントして演奏が始まる。当然2人は僕がろくに弾けないことをすぐに理解して、3回くらいやりなおして止めた。
スタジオの防音室から出たところにある喫煙可のテーブルで「いいむらくんさ、難しいなら難しいって言ってくれれば他の曲だって出せたんだよ。俺たちだって今日のために時間つくって、練習してきてるんだからさ。大学生なの? だったら賢いんでしょう。そういうところに頭使ってよ。ドラムのあいつだって何も言わないけど良い気分じゃないよ。悪いけど今日は帰ってほしい」と穏やかに言われ、スミマセンデシタしか言えずに帰った。
情けないことこの上ないが、今の僕の中にはあの日のままの自分と、それを包み込むように存在している少し大人な自分がいて、どちらの僕も生きようとしている。