ピーナッツの夜
もう十数年前のこと。同僚と、修学旅行の引率のときに買った食材を使って、ホームパーティをしようという話になった。その食材とはピーナッツで、僕が間違えて大量に買ってしまったものだ。どうやったら出張中にピーナッツを買いすぎるのかという疑問はあるだろうが、それは置いておく。全部1人で食べたら体調を崩しかねない量のピーナッツを持っていた。
スーツでは料理しにくいと思い、いったん帰って着替えることにした。すでに外は暗い。1Kのアパートに帰って、キッチンのある廊下を通過して、奥の部屋だけ灯りを点ける。手早く着替えて、冷蔵庫に入っているお茶を一口飲んですぐに出ようとした。
玄関のドアを開けて外に出ると、そこには一人の女性が立っていて飛び上がるほど驚いた。ドアの前、共用の廊下の蛍光灯は切れていて、相手の顔は見えない。女性も驚いたのかくるっと背を向けて廊下の隅で固まってしまった。僕は声をかけることもなく、出かけていくので精一杯だった。いつからドアの前に立っていたんだろう。そして誰なんだろう。
その後に合流した同僚にも、その話はできずにその日を終えた。
後になって分かったのだが、僕のアパートのインターフォンはその時壊れていて、ボタンを押しても音が鳴らない状態だった。壊れていなければ、ファミマ入店音がすごい音量で流れるはずだった。
あの日、女性はインターフォンを押して、僕が出てくるのを待っていたのかもしれなかった。そうしたら僕は普通に出ていっただろうし、相手によっては話し込んだりしたかもしれない。相手の心当たりがないわけではなかった。
インターフォンが壊れていなかった世界線のことを、たまに考える。でも、壊れていなかったとしても、いま僕はここにいる気もする。