夜の施錠
教師をしていた頃、数週間に1回の頻度で夜の施錠の当番が回ってきた。理科室があるフロアの鍵を締めて周るのだ。
幸い、生物室に人体模型はないし、歴代の科学者の肖像がもなかったから誰かと目が合うことはないし、内臓むき出しの模型に追い掛け回されることもなかったのが、それなりに不気味さを感じる時間だった。
部屋の奥に照明のスイッチがあるのは一体どういうつもりなのだと思いながら消灯して、なるべく少ない歩数で実験室の外に出る。何も居やしないのだが、「夜の校舎にいる」という意識が僕を早足にさせる。むかし図書館で読んだ怪談やテレビ東京のオカルト番組、大学のときY島さんが話していた「私、たまに幽霊を足で踏んじゃうことある」の一言がぐんぐん僕についてくる。
夜の施錠の仕事はだいたいの場合ひとりでやる。僕と似た気持ちでやっていた先生は他にいたのかなと思うことがある。