生き延びるための料理

 読書会で料理の話になった。料理というか、調理の話。ごはんやお菓子を作ることで心のなかに浮遊した言葉がしかるべき抽斗に入っていって、自分を取り戻す感覚。料理ができて食べる頃には普段やかましい言葉は抽斗に収まっているから、眼の前には美味しい食べ物だけがある。
 そんな理想的な自炊に、コロナのときに出会ったのを思い出した。
 
 感染を防ぐために、僕たちはマスクやアクリル板を駆使した上で、最終的には手洗いとうがいという、一人の人間が身体だけでできることの効果を再確認した。
 でも、身体は何回もごしごし洗ったり、消毒してガサガサにするためではなくて、何かを生み出すのに使えたりもする。それが料理だったんだと思う。
 
 読書会のなかで「何を作っていたんですか」と聞かれた。店を閉めて家に帰ってから、最小の材料でできる麻婆豆腐を作っていたのを思い出した。レシピまで小さくまとまらなくてもいいのに、と一瞬思ったけど、自分の生活のサイズを測っていたのかもしれないなと思う。