春巻きの音

 小学校の給食の時間、僕たちは4人で机をくっつけて班ごとに食べていて、担任の先生は日替わりで班を変えて一緒に食事する仕組みだった。ある日、今思えばおそらく20代か30代前半の若い担任の先生に「さとるくんが食べると良い音がするね」と言われたことがあった。その日のメニューは春巻きだった。
 
 確かに噛むとパリパリと鳴るけど、他の人に比べて音が大きいとか、良い音がするとか、そんなことあるものだろうかと思いながらはにかむことしかできなかった。「音が大きいということは口が開いてるということで行儀が悪い」を「良い音がするね」と言い換えたわけでもないと思う。
 
 あの時、誰とおしゃべりするでもなく黙々と食べている、勉強だけはできるけど社交性がおおいに心配な子どもにかける言葉がそれしかなかったのかもしれない。何しろ若い先生だった。きっと毎日が手探りだったろうし、給食の時間に何を話していいか悩んで憂鬱になったりしたかもしれない。僕のようなどこか陰気な子どもは悩みの種だったかも。
 その先生との連絡帳に僕はポケモンのコイルの絵を描いて「さすが上手いね」と誉められたりもした。1人に一言書くだけでも大変だ。そうやって大人に育てられたのだなと思う。