壁を隔てて

線路沿いのアパートばかりを転々としている。寝る時に電気を消して、もう日付が変わっているのに電車が運行していて、音が聞こえる。床が少し揺れる。これは5時に夕飯を食べて、8時には外が無音になる実家ではあり得ないことで、初めて線路沿いに住んだときに感動したのだった。夜にも、世界が動いている!
以来、なんとなく線路から近い物件を選んでは引っ越していて、夜は電車の揺れと、場合によっては遠い踏切の音を感じながら、気がついたら眠りについている。
そんな生活に慣れてから実家に帰ると、静か過ぎて寝付けない。いや、静か過ぎるというよりは「夜」という音が聴こえる気がして落ち着かない。
たぶん同じ理由で、学際の頃はネットカフェが好きだった。個室といいながらも壁の向こうには明白な人の気配があって、無音とは程遠い。寂しかったのかもしれない。
一種のステレオタイプなんだろうけど、都会の中で孤独同士が壁を隔てて存在しているときの、孤独ではあるけど1人ではないのだという感じが好きな人となら、何かを分かち合える気がする。