剣道部の3年間
中学の時は剣道部だった。跳び箱は5段も飛べず、サッカーでは空振り、バスケでシュートをすれば真上にボールが飛ぶ僕が運動部に入ってしまったのは、警察官である父に小5から剣道教室に通わされ、「部活とはやったことがあるものを選ぶもの」と信じきっていたからだ。
案の定というべきか、ほぼ1日も休まずに練習に行っていたのに公式大会での勝ったのは3年間で1回だけ。それも、自分が3年生で、相手が他校の1年生だった試合だ。男子部員が6人しかいない部で、5人で組む団体戦。週に1回も練習に来ない同級生と後輩にレギュラーを取られて補欠で、僕にとって団体戦とは大声応援タイムを意味した。
剣道は二点先取で勝ちになる。唯一の勝利となった(対1年生の)試合で、僕ががむしゃらに振り回した竹刀は相手の面に運良く当たり「もしかしたら勝てるかも」と思った。そうとなれば千載一遇のチャンス。初心者の相手と「叩いてかぶってジャンケンポン」みたいにポコポコやっている内に、二本目を取った。
試合後、見に来ていた母親と他の子の親の笑顔に囲まれて祝われている間、僕は心臓の音が聞こえそうな興奮状態にあった。高鳴りが潮のように引いていくと、左の肋骨のあたりが痛みだしうずくまった。相手の竹刀が、防具がない場所に当たっていたのだ。「勝つことに集中してて痛みを感じなかったんだねえ」と同級生の親が、笑顔で称えるように言った。僕はこれまで3年間、1回だって「勝つことに集中」しなかったことは無かった。あなたの息子より何倍も多く練習に出て、初めて勝ったんだ。それを、何だよ。
教員になって中1の担任になったとき、剣道部に入った生徒に「先生も剣道部だったんですか!」と目をキラキラさせながら言われた。うん、実はそうなんだよ。弱かったけどね。かっこいいよね、剣道って。