明るいつもり

20代半ばの頃、お客さんが出会いを求めていると知るや「良い人」を紹介してくれると噂のカレー屋に行ったことがある。必要のない弁明のために書いておくと、紹介を当てにして行ったわけではなく、店主の人柄がよくてカレーが美味しいから行くべしと勧められたから行ったのだ。
10人も座れない、カウンターだけの店内でカレーを食べていると、店主が話しかけてくる。「あなた暗いね。もっと明るく振る舞ったほうがいいよ」。ちょっと面食らったけど、こういうことを初対面で言われることがあまり珍しくない人生だ。昔好きで聴いていた曲に「バイトの面接で『君は暗いのか』って/精一杯明るくしてるつもりですが」という歌詞がある。共感。明るくしてるつもりなんですがね。
とは言えまあ、少なくとも人に好かれたり、ましてや出会いがほしいなら必要なのは明るさ(明るく見えること)なのだろう。何となく、分かってきた。
そのカレー屋には確か、正面の入口とは別に「そこをくぐって出ると良い出会いに恵まれる」という、屈まないと通れない小さな出口があって、さすがに「なんだよそれ」と思いながら、暗い顔でその出口から出た。