常連
思い出のラーメン屋には、閉業前に食べに行くことができた。店前には待つ人の列ができていて、「閉業します」の張り紙がなかったから、通りがかりの人たちが「並んでるけど人気店なのかな」という表情で中を覗いていく。店内は最後に来店したときからほとんど変わらず、メニューもあの頃のまま。店主が少し歳をとったかなというくらい。
「いつものでいい?」と聞かれる常連客、会計時に別れを惜しむ声をかける人たちもいて、僕が記憶していたよりもずっと多くの人に愛されている感じがした。創業50年以上らしいから、当然と言えば当然。僕のように特別な気持ちを持ちながら足が遠のいていた人も含めたら、ものすごい数いるだろう。
自分にとってとても大切な人は、自分以外にも大切に思われていたりする。すべての気持ちを発露しない方がいいこともあり、「言わない」という選択をできる回数が増えてくると、上手くいくようになると同時にさみしくもなる。伝えることも伝えないことも難しい。