南に港、北に山

大学生の頃に行った神戸で、当時ネットで知り合った友達に初めて対面し、どこかでカフェに入ってお互いのことを話した。飲み物に入っていたミントの葉をストローの先で弄んでいたら「育ちが悪い」と言われ、え、育ちってこういうことなの?と思ったけど言葉にはしなかった。その後、どこに入るでもなくひたすら歩いた末に、びっくりドンキーを背にして海辺に座り、港に着いた大きな船から知らない新郎新婦が降りてくるのを二人でぼんやり眺めた。いや、眺めていたのは僕だけで、友達は何も見ていなかったのかもしれない。「南に港があって、北に山があるから方角が分かりやすすぎて、神戸の人は方向音痴が多いんだよ」と言っていた。本当だろうか。
その友達としばらく連絡を取らないまま2、3年が過ぎた頃、明日東京に行くから会わないかと誘われた。JR上野駅で待っていたら、ずいぶん体型が変わり、目が座った友達が現れた。持ち前の明るさと言葉の率直さは変わっておらず、話は止まらない。それなのに何か良くない理由で東京に来ているのだろうと思わせる雰囲気があった。何も聞けないまま上野からかっぱ橋道具街、そして浅草まで歩いた。僕は方向音痴ではないけど、当時まだ建設途中のスカイツリーが目印になった。「変わらないね。相変わらずダサくてほっとするわ。」失礼なやつだと思ったけど、ほっとしたのは本音に聞こえたから、会って良かったなと思った。それからその人と連絡は取っていないけど、LINEの友達リストの中には入っている。もう二度と会わない気もする。