松岡享子からの贈り物

東陽町のギャラリーに「松岡享子からの贈り物」という展示を見に行った。ギャラリーは竹中工務店の1階にある、社内ギャラリーなんだろうと思う。会社の建物なので、通りに目立つ看板が立っているわけでもなく、知らないと辿り着けないんじゃないかと思う。
松岡享子は、児童文学研究者で翻訳者。2022年に亡くなる前は、東京こども図書館の理事長だった人だ。翻訳の仕事として有名なのは『パディントン』『フランシス』のシリーズの翻訳だろうか。30代前半で自宅を子どもたちに開放して「松の実文庫」という子ども図書館を開設して、その後その分野で第一人者だった。物語の読み聞かせ(ストーリーテリング)の日本における先駆者でもある……らしい。展示を見て初めて知った。
特に面白かったのは、松岡享子さんを偲んで、共に図書館で働いた人、指導を受けた人らがインタビューに答えている映像。その中で、松岡さんの娘(養女)が「母は、大勢でいても、ひとりでいられる人だった」と言っていた。大勢に好かれている人だった、でも、実は孤独な人だった、でもなく「ひとりでいられる人だった」というのが、いかにも良き性質が語られるように響いた。その他にも、東京子ども図書館で働く仲間に対して「まじめは足りてます」と言って、自分の前で肩の力が入ってしまう人を和ませたりしたというエピソードもあった。仲間を集めて、大きなことをしようとする人すべてが、こんな懐の深さを持ってはいないだろう。
比べるべくもないけど、自分が子どもの居場所を作るとしたら、教育に興味がある学生さんにもスタッフとして入ってもらいたい。半分は偏見なのかもしれないけど、教育学を学んでいたり、教職を目指している学生さんの多くはとても真面目か、あるいは夢想家だと思っている。使命感や責任感、自分の理想に縛られて(あえて「縛られて」と言うけど)本来持っている柔軟さとか、人の好さ、言葉の力が隠れてしまったりする。見るからに不完全で手探りのプロジェクトに関わることで、すこし楽になれたら、彼らにも将来の教育界のためにも良いんじゃないかと思う。偉そうだけど。
ちなみに、東陽町のギャラリーA4(エークワッド)の展示は、3月13日までやってます。