自転車の経験
ついこの間、自転車を買った。買った本を載せられる大きめのカゴと、変速機がついたものの中で一番安いものを選んだ。自転車に日常的に乗るのは高校の通学ぶりで、電車に乗る回数を減らせるならと考えてのことだった。東京は車が無くても不自由なく生活できる分、そういうライフスタイルの人が多くなりすぎて、皆が電車の中で苛立っているように感じる。
結果的には、自転車を買ったのは大正解だった。
行動範囲が格段に広がる。電車で数駅先の喫茶店に、10分ほどで行ける。目的地めがけてぐんぐん進んでもいいし、おおよその方角だけを見失わないようにしながら適当にうろうろしてみるのもいい。何より発見だったのは、自転車によって拡張する身体の範囲についてだった。というのも、自転車という乗り物は、移動能力が上がる割には一度に運べる荷物の量はそこまで増えない。手で持つ代わりにカゴや荷台に載せることになるから楽にはなるが、そんなに大量には載らない。このことが、移動能力が上がっていることをより際立たせる。家の玄関を出るまでは、徒歩でも自転車でも変わらない。でも、家を出発してからの景色の流れの速さはぜんぜん違う! まるで違う生き物になったみたいだ。
さらに、自転車に乗ると「邪魔なもの」も変わる。歩くと気にならない段差が目に入ったり、自動車に感じる恐怖感も変化する。よく「店員に横柄な態度をとる人間にならないために、全員が一度は接客業をやるべきだ」と主張する人がいるが、乗り物もそうかもしれない。「レンタル自転車が危ない」とか「子どもがふらふらして邪魔だ」とか、そういうことも立場が変われば薄まるんじゃないか。