ナミブ砂漠の定点カメラ

大学生のとき同じサークル内にカップルがいて、卒業後に結婚したんだけど、その二人はともにインドア派を自称していた。見るからに気が合いそうな二人を周囲は祝福して見ていたと思う。そんな彼らがいつか言っていた「休みの日はSkype通話中にGoogleストリートビューを開いて、一緒に見ながら世界中をデートする」という話にすごく驚いたのを覚えている。Googleストリートビューのサービス開始は2007年だから、開始してまもなかったはず。ビデオ通話中に画面共有するサービスは当時なかった気がするから、音声だけで次にどこに行くかを話していたんだと思う。「この交差点を左に行こう」「うん」みたいな感じだろうか。
その二人の感覚って、相当新しかったんだと思う。ビデオ通話を「デート」と呼び、遠い世界のどこかが映る画面を見て旅行のように楽しめる。今でこそLINEとかGoogleのサービスとして定着しているから違和感は小さいけど、当時はそういう行為を価値のある体験だとする人は少なかっただろう。
 
映像が日常に溶け込んで久しい2025年。デートは好きな方法でしたらいいと思うけど、一人で遠い世界に行く方法を知っておいて損はない。自分で道を選ぶストリートビューや、作り込まれた番組や映画から少し距離を置いて、何が起こるか分からない遠い場所を覗く方法がある。ライブカメラだ。お薦めはナミブ砂漠のライブストリーミング。運が良ければ動物たちを見ることができる。コメント欄をONにすると外国語で「やったー! デカい鳥の影、発見!」とはしゃぐ人も見えたりする。
 
砂漠じゃなくて都市の映像を観たいひとは「ライブカメラ 〇〇(場所)」で検索するといい。渋谷のスクランブル交差点のような分かりやすい場所だけじゃなくて、川が氾濫していないか見張るためのカメラの映像もあるし、田舎のトンネルをずっと映しているカメラもある。「愛媛は雨なんだな」と思ったりする。愛媛が雨だったら何ということもないけど。単に見ていて面白いだけじゃなくて、何かしんどいことがあって視界が狭くなったとき、そういえば世界はとんでもなく広かったなと思いだせる効果もある。いつか思い切ってナミブ砂漠に行ったっていい。